今回は痛みの抑制についてです。一つ目は、「手当て」というの言葉から分かる様に、痛いところを触るとその痛みがすこし和らいだという経験をされた事があるかと思います。これは、痛み感覚は侵害性(Aδ線維、C線維)と非侵害性(Aβ繊維)の求心性繊維の活動バランスによって調節されているという事が脊髄後角で起こっているからです。
二つ目は、脳内で起こる痛みの抑制です。中脳辺縁ドーパミン系と呼ばれており、痛みの抑制において重要なメカニズムです。体に痛みを感じると、中脳にある腹側被蓋野からドーパミンが放出されてます。それを受けて側坐核が働くと脳内のμーオピオイドが活性化し鎮痛機能が働きます。癌治療に使われる「モルヒネ」もこの作用で痛みを抑えています。
三つ目も脳内で起こる痛みの抑制です。下行性疼痛抑制系と呼ばれ、脳幹網様体にある、縫線核・青斑核からそれぞれ、セロトニン・ノルアドレナリンが放出され脊髄後角で痛みの抑制、遮断されます。赤ちゃんの時には気になっていた肌着に付いているタグが成長と共に気にならなくなるのは、この機能によるものです。
最後に体を動かすことによる痛みの抑制(軽減)です。これは、内因性カンナビノイドの関与や運動する事で筋肉から様々なサイトカイン、ペプチドが放出される事、さらには、PGC1-α(ペルオキシソーム増殖因子活性化レセプターγ共役因子)の活性化から痛みを抑制しています。ランニング中に起こる何とも言えない幸福感や高揚感いわゆる「ランナーズハイ」はこの内因性カンナビノイドの働きで起きています。また、PGC1-αは活性酸素を抑制する、つまり老化を抑制する等痛みの抑制以外にもたくさん良いことがあります。「体を動かしましょう」には理由があるのです。
ここで言う「運動」とは心拍数が1.5倍になる程度の動きをいいます。つまり、日常生活での家事や歩行、草取り等を額に汗がうっすら浮かぶ程度の有酸素運動を継続的に行うことが重要となります。
少し難しい話になりましたが、外傷等を除いた「痛みの原因」は「痛みの抑制」がきちんと働いていないことが多いです。